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菊池さんのリンゴの木

詩・高丸もと子 曲・熊谷美紀

【原詩】

リンゴ園から
海が遠くに見える
スプーンですくったような小さな海
その海が山まできて木をさらっていった

6年しないどリンゴがなんない
わが子を育てるようなもんだ

ネコも寒いべ
腹はすくべ

頬かむりした奥さんも笑ってはなす
瓦礫でノラネコの囲いも作ってあった

やっと6年
大きく実ったリンゴ
大きな台風がもぎとっていってしまった

つぎの年の秋
菊池さんのリンゴが届いた
透みきった空
リンゴの香り
あの銀色の海
リンゴ園を駆けていた犬のラッキー

あれから
おやじ
おふくろ
おれの  かあちゃんまでも
みーんな 亡くなってしまった
ほんだけんど おれには リンゴが あるべ
おれは まだまだ 元気
ラッキーも 元気
らいねんも リンゴ送るよ

菊池さんのリンゴが届いた
透みきった風
リンゴの香り
あの銀色の海
リンゴ園を駆けていたラッキー

負けないで
負けないで
わたしも生きるよ

詩人コメント
「津波で生き残った一本のリンゴの木に花が咲いた。実がなったら漁師さんに食べてもらう。」その新聞記事を読んで夫と二人で陸前高田まで菊池さんに会いにいきました。震災から8年、誰にでもある年月という津波は一人ずつ大切な人をさらっていくようです。私も菊池さんのリンゴ園を思い出し、強く生きたいと思います。

作曲家コメント
菊池さんのリンゴに対する愛情と強さを感じます。方言の部分は菊池さんにイントネーションのアドバイスを受けました。電話のむこうの菊池さんは、とても穏やかで暖かいお人柄に感じました。今年もリンゴが豊作でありますように。

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